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いよいよ、小学校生活最後の運動会が始まった。
開会宣言をする先生の挨拶が終わると同時に、朝方聴いた花火の音と同じ音がこだまする。
体育委員長の翔太が朝礼台の上に上がる。
いつもより大袈裟なラジオ体操が始まった。
手は爪先までピンと伸ばす、まるでロボットが体操をしているかのように、一つ一つの動作が大袈裟だった。
時折、スポーツ命的な鈴木先生がメガホン越しに『もっと、腕をふれ!』とか『背筋を伸ばせ!』とか、一人で張り切っている様に『うざい』とか『お前もやれよ』とか運動会が楽しくない生徒の愚痴にも似た言葉が聞こえてくる。
準備運動が終わり、プログラム通りに進んで行く。
先ずは一年生の徒競走だ。
何度も繰り返されるスタートのやり直しに、父兄の笑い声がそこら中で聞こえてきた。
竜馬も思わず笑っていた。
スタートのピストルの音と共に、父兄が自分の子供の名前を叫ぶ声と応援団の太鼓の音に、運動会は盛り上がりを増していく。
チームは各学年同じ組が同じチームで構成されている。
ブルーの鉢巻が五組の前を走り抜ける度に、絶叫にも似た声援が響き渡り、大きなブルーの旗が走者を追い掛ける。
竜馬は声援を送りながら、母を遠目に探していた。
竜馬、最後の運動会。
竜馬は一度もその姿を、母に見て貰っていなかった。
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