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時は少しだけ戻り、ミカエルがサタンを貫いたその瞬間。
ここは普通の人々が住む世界
ピシッ
音はしないが、そんな擬音が聞こえてきそうだ。
空と陸の間の何もない空間に突如としてそれは現れた。
数秒後、まるでパリンとでも言うようにそのヒビは割れた。
それは異様な光景だった。
青い空に緑が繁る陸。その間のただ一カ所だけ空間が裂け、闇さえ吸い込みそうな、まるでブラックホールのような黒さがそのただ一カ所にだけあった。
「ぐ……」
苦しそうな呻き声をあげ、そこから吐き出されたものがあった。
サタンだ。
「ここは……狭間の世界では無いらしいな……とりあえず何か生物に転移しなければ……肉体の維持も……限界が近い……」
自分の腹に空いたドデカい風穴を見ながらサタンはそう言った。
「オギャアアア」
あたりはロウソクの灯りしかない、薄暗い部屋の中、その鳴き声が響き渡った。
新たなる生命をベッドの横に立つ産婆が優しく抱き上げると、それをベッドの上に横になる女性に手渡した。
女性はそれをまるで自分の心臓かのように優しく抱き上げ、涙を流しながらそっと口づけをした。
バンッ
勢いよく開いたドアが壁にぶつかりやかましい音を立てた。
開いたドアから一人の男が息をきらしながら部屋に入ってくる。
「生まれたのか!?」
肩で息をしつつも興奮した声で男は訪ねた。
部屋にいた女と産婆は二人同時にニコリと笑い、頷いた。
「ほら、あなた見て、元気な男の子よ」
女性はそういい、未だ泣き止まぬ赤ん坊を優しく抱き上げ、男に手渡した。
「おお!!なんと元気な事か!!決めていた通り、この子の名前は‘シュウ’でいいな!?」
相変わらず興奮覚めやらぬ声でそう言うと、女はただ微笑みながら頷いた。
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