第一章>>>見知らぬ世界

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その日は雨が降っていた。 ―――キーンコーンカーンコーン 帰宅しようと、笠(リュウ)は傘を準備し、昇降口へ向かう。 「……はぁ、どーせまたあいつは彼女と帰るんだろーな。」 親友の結斗のことを思い出し、溜息をつく。 なんであいつだけ彼女がいるんだ… そんなことを考えるのはいつものこと。 しかし、笠は昇降口についたところで足を止めた。 結斗の彼女が昇降口の屋根の下にぽつんと一人で立っていたからだ。 いっつも一緒に帰ってるのに、めずらしい。 「…あっ」 彼女が気づいてこちらを向いた。 そう、彼女とは知り合い。 …いや、顔見知り程度である。 「……えぇーっと…結斗は?」 そう問いかけてみる。 「明日から部活の合宿らしいから買い出しに行ってる。」 彼女は静かに、雨を見つめながら答えた。 「へぇー…」 毎日二人で帰宅している姿を見かけるが、今日はそうもいかなかったらしい。 笠は顔を逸らして話していたが、彼女に視線を戻した。 「……傘…忘れたのか?」 「うん。」 そういう彼女はただ、ぼんやりと雨を眺めているだけ。 正直、結斗の彼女は苦手な人間だった。 名前は成瀬紫乃。 隣のクラス。 けっこう無表情。 基本無口。 何を考えているのか分からない。 ………だけど美人。 どうしても会話が苦手だった。 そう、 「キライ」じゃなくて 「苦手」。 「…………傘、使うか?」 そう言って笠は紫乃に傘を差し出した。 .
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