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御池様を考えると今日も溜息が漏れる。
私のような醜女に
どうして声をかけてくれたのかしら。
御池様は町一番の美女である、あの御方と恋仲だと聞いた。
きっと二人は周りの羨望と祝福を受け、とわの契りを交わすに違いない。
町を歩けば誰もが振り返り、見惚れるイイ男とイイ女。
それなのにどうして―。
御池様が本気でないことはわかっている。
いくら私とてそこまで莫伽じゃない。
私の他にも粉をかける女は山ほどいる。
そんな当代きっての遊び人である御池様でも、美しいあの御方は美しいゆえ、
顔色ひとつ変えず、
自信と威厳を持って堂々と本命の座に居座っているという。
醜い私は醜いゆえに、御池様の動機がわからなくて、彼方様を想うと、恋心と苦悩で毎日溜息がでるのでした。
色と悩。
煩悩。色情。
私の心は日夜掻き乱されます。
情事の最中、御池様は眼鏡を外します。
私の顔を直視しなくて済むように。
そして涼しい顔で、相思相愛とは掛け離れた面持ちで、悦楽に溺れる私をじっと観詰めているのです。
御池様と逢瀬の日。
情事後、私は御池様の胸元に添い寝しながら、たまらず口にしていました。
「貴方様と共に生きたいのです」と。
御池様は怜悧な目を向けて言いました。
「体と金が目当て。でなければ、誰がこのような醜女とつきあうものか」
御池様は顔色ひとつ変えず、冷ややかでした。
「私が愛する女はお前だけだ。この醜女が、私の態度に一喜一憂しているのを。私とお前、陰で嘲笑っているのを知ったら。果してこの醜女はどう思うかな?」
いつのまにか、あの御方が目の前にいました。
御池様と御方は寄り添って消えていきました。
地獄に突き落とされた私は、ただ独り、悲しみに暮れるしかありませんでした。
目が覚めて、それが夢であることに気づきました。
眠りから覚めた私は涙を流していました。
よかった。今のは夢だったのね。
傍にいる御池様に目をやりました。
御池様はいつものように私を見詰めていました。
私は御池様にいいました。
「ごめんなさい。眠ってしまったみたい」
「いいよ。気にするな」
「私が寝ている間、何をしていたの?」
「ちょっと電話をかけていたんだが、君が一向に目を覚まさないので、少し話し混んでしまったよ」
御池様は携帯電話を見せると、冷ややかに微笑みました。
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