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涼子はそれだけ言うと、少し申し訳なさそうな笑顔でしなやかに立ち上がった。
桔平は、涼子の余りに唐突な告白に、悪い夢でも見ているのだろうか、と顔を打ち振ってみた。
涼子がエリートサラリーマンと結婚……
桔平に突き付けられた現実は、まさに青天の霹靂だった。
表参道の瀟洒なコーヒー店。
店を出ていこうとする涼子を、桔平は虚ろな目で追う。
涼子は悠揚とした足取りで出入口に向かう。
まるで、商談を無事に終えたキャリアウーマンのように。
「ちょっ……待てよ、涼子!」
正気を取り戻した桔平は、思わず立ち上がって呼び止めた。
しかし、涼子の姿はそのまま店内から消えてしまった。
荒涼たる風が心を吹き抜け、桔平は虚脱したように椅子に崩れ落ちた。
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