青年は遺書を買いに

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紅い夕暮れに染まった見慣れたボロアパート。   ビニールの取手が食い込み、すっかり僕の掌も真っ赤に腫れ上がっていた。   焦っていたからか痛みは感じなかったが、気付いてしまった今はかなりジンジンと痛む。     …この荷物を早く片付けて今日はもう寝よ。     何とか鍵を填(ハ)め、 軋むドアを塞がった手で無理矢理開けた。     僕は はっ、と息を飲んだ。     ―開けた瞬間に、 その瞬間に、 自分がさっき買い忘れた 『必要な物』を思い出した。       そこは何もない 見慣れた自分の部屋。 暁の日が窓から零れ、薄暗い部屋を暖かく照らしていた。     何もない。 何も。 空っぽで、 何もかもが足りない。   この部屋は、僕そのもの。     そうだ、 僕は、遺書用の便箋を買いにコンビニへ…       両手一杯に持っていた 『生きる為に必要な物達』が するり、と落ちた。
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