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「椿ってさ、水みたいだよね」
帰り道。
友人の一人である長谷川閖亞がそう言った。
「水?」
「そう。
掴み所がなくて、自然にその場にいる。無いと困る存在。
細流では弱いのに、荒々しく邪魔なものを壊す」
「たしかに。頭は弱いのに、剣道や柔道では滅法強い椿みたい」
閖亞に同意するように、鳫谷英里がクスクスと笑った。
「頭が弱いって…失礼な」
そうは言っても否定できない。
椿は笑っている友人達から顔を背けた。
「あ!桜が咲いてる」
目に映ったのは、大きな浅葱桜の樹。
黄色みを帯びた緑色の花が鮮やかだ。
「知ってる?この樹、江戸時代からあるんだって」
「え?浅葱桜ってもっと後に出来たんじゃないんだ~」
友達の会話を聞きながらも、目は樹に向けたままだ。
「うえーんっ」
ふと、樹の下で子供が泣いていることに気付く。
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