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暗闇の中で、“それ”は見ていた。
何百年ぶりに、その魔法陣が使われるのを。
*~*~*~*~*~*~*~*~
《移動》の魔法陣の上で、ハルはゆっくりと目を開けた。
しかし、見えるのは真っ黒な闇ばかり。
(目ぇ開けた意味ねー)
別に無くはないだろう。
唐突に、ハルが目を細めた。
同時に声が聞こえる。
「誰だ。」
質問ではない、尋問に近い口調だ。
「ハルだ。」
そう言って笑うと、漆黒の中に足を踏み出した。
向こうから、鎖が擦れる不快な音が響いてくる。
ゆっくりと進んでいたハルは、不意に足を止めた。
闇になれた目に映るのは、手足に枷をはめられ、壁に拘束された人影。
見じろきをした“それ”がハルを見た。
金色に煌めく瞳がハルを捕らえる。
薄く微笑を浮かべて、ハルはその視線を見返した。
「随分、厳重だな。」
ハルが足を止めたすぐ先にあるのは魔法陣だった。
これも“それ”を拘束するもののようだ。
ハルの呟きは聞こえているのだろうが、完璧に黙殺して“それ”は続ける。
「何しに来た?」
「別になにも?」
随分とニヒルな台詞に聞こえるが、全くの事実である。
何故なら、ハルはほんの気まぐれでここに来ただけだから。
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