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あまりにきっぱりと断られたからか、高田は笑顔で一度会釈をしてから踵を返し経理課を後にした。廊下に出てからわざとらしく舌打ちをしたが、それは経理課には聞こえなかった事だろう。
一方の稲越はといえば、何ら気にする様子も無くパソコンに向かっている。周囲の若い女性が彼女に向かってひそひそと話をしているのにも気付いているだろう。見向きもしないあたり慣れているのではないだろうか。
だが、それもそのはず稲越は学生時代からこういった経験を何度も積んでいるのだ。別に男からモテるわけではない。むしろその逆で、男からすると彼女を口説いたりするという行為は賭けや罰ゲームのネタにすぎないのだ。それに気付かない内は随分と痛い目を見てきた。とはいえ、幾度と無く繰り返していれば学習くらいはするもの、今ではすっかりと男性不信に陥ってる次第である。
四十を間近に控えて人生の楽しみはといえば、仕事終わりに家で飲むビールと、贔屓の作家の本を読む事。もう少し言えば映画やドラマ、アニメの鑑賞くらいか。
一般的に見れば女盛りも過ぎた身でそれは悲しいのではないかと言えなくも無いが、本人がそれで幸せなのだと言うならそれはそれでいいのかもしれない。下手に恋愛しようとすれば苦い経験をするとなれば納得も出来よう。
稲越は、自分はそういう星の元に生まれたのだと、一人悟っているのだ。
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