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高田は諦めもせず、足繁く経理課に通う。営業の平社員である彼が、頻繁に用事があるわけもなく、何かしらの理由を見つけては顔を出しているのだ。とはいえ、稲越からすれば迷惑以外の何物でもない。自分が真面目に仕事している最中に声を掛けてくるのだから当然だが。
そんな光景にも周囲が見慣れてきたある日の昼食時、社員食堂の一番隅で稲越が食事をしていると、ついたてを挟んだ後ろの席に高田が同じ営業の男と座った。
「高田、そろそろ二週間だろ? どうなんだよ」
「あー、うん、あれさ。無かったことに出来ねえ?」
「今さら何言ってんだよ、お局を口説くのなんか余裕なんだろ?」
「あのおばさんいくら誘っても乗ってこねえんだよ。ほんとむかつく」
高田が稲越を誘うのはやはりそういう理由だったようだ。しかし、真実を聞いてしまった彼女がショックを受けるのかといえばそうでもない様子。テーブルの上のハンバーグ定食に夢中となっている。口に運ぶたび恍惚とするのだからよほど美味なのだろう。
「あー疲れた。なんか盛り上がってるね?」
「お疲れ、椎名(しいな)。いやな、高田がお局を口説けるかって話なんだけどお前いなかったよな?」
同じ営業であろう椎名と呼ばれた青年が彼らと同じ席に着く。切れ長の目と筋の通った鼻が印象的な高田に劣らぬ容姿の好青年だった。
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