いつもと同じ、はずだった。

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「え、高田って稲越さんの事好きなの?」  椎名のこの一言で周囲は水を打ったような静けさが支配した。食堂内の雑音が随分と遠く感じられる不思議な現象。普通に考えれば、高田が稲越を好きになるという思考にはどうやっても辿り着かないのだから当然だろう。  たっぷりと間を置いてから、彼が何を言ったのか漸く理解した高田が口を開く。 「ぶはっ、ないないない。あるわけねえじゃん。賭けだよ、賭け」 「ああ、なんだよかった。賭けって?」 「高田がお局を口説けるかって賭けだよ。お前も乗る?」  これは盛り上がるだろうと期待していた二人だったが、その予測を裏切り椎名は黙ってしまった。質問に答えようとせずに黙々と食事を進める。 「椎名? どうした?」  不審に思った高田が問うと、椎名の手が止まった。 「悪いけど、その賭けやめてくれないかな」  物悲しげにぽつりと落とした。いったい何故そんな表情を見せるのだろうか? こういった遊びが嫌いなのであれば参加しなければそれでいいのではないだろうか。  背後で静かに聞く稲越は元より、会話する二人も同じ疑問を抱いたようだ。共に悪ふざけをする事はあってもこういった反応が返ってくる事はなかったのだ。彼らが答えを逡巡させていると、椎名が続きを口にした。 「俺、稲越さんの事が好きなんだよね」 「は?」「は?」  あまりに予想外の台詞に、二人は間の抜けた声を出してしまった。稲越はといえば、同じように声を出してしまいそうになるのを咄嗟に堪えた様子。
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