刺客

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<ヨシッ!> 忍は沈黙が確実であると判明すると、先の身体の使い方について会心の出来と感じた。 刹那、何かが地面に叩き付けられた音がした。なんと司音がバックドロップを刺客に決めていた。頭から地面に激突し、相手は力無く崩れた。 二人は感心するが、また辺りを見た。まだ薮に刺客は複数いる。 突如パチパチ…と軽めの拍手が鳴った。 「お見事です。流石は司音さん。抜けられたとはいえ死音…、『死神の鎌音』の名に違わぬ腕前」 薮から背の高い一人の男が現れた。歳は二十八頃だろうか、しかし幾つもの死線を潜り抜けた様な険しさを携えた顔が印象的だった。 「…矢弩(しど)」 司音は男の名を口にした。 「司教がお待ちですよ」 「その司教は…楔斎は娘に、鈴子に手を出してないでしょうね!?」 彼女は矢弩に問い質す。 「ご安心を。丁重にもてなしております」 彼は笑みを湛えながら答えた。 「しど…ですか」 忍は司音に聞いた。 「教団の暗殺者は本名を持たなず、優れた実績を重ね、評された仇名がそのまま名となります。矢と弩(いしゆみ)と書いて矢弩。強力な突きが弩から放たれる矢の様という事から付いた名前です」 彼女の答えを聞き、忍は顔が強張った。 「しかし…、此処から先は、お連れの方には御引取り願いたいのですが」 矢弩は忍と天慈に目を向け語り、そして提案した。 「我々は司音さんと大事なお話があります。御引取り頂けるなら、同志にした仕打ちに目をつむり、追っ手も放ちませんが…」
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