刺客

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軌道の読めない斬撃が天慈を包み込む。白刃の輝きが幾重にも重なり、ある種幻想的な世界を見せ付けた。 「ヘッ!!」 だが天慈はそれをいとも簡単に躱した。それどころかナイフを左右の手に一つずつ、二振りも奪い取り、何と握力で刃を粉々に握り潰した。金属の悲鳴が鳴り響く中、あまりの出来事に刺客も唖然とした。 「いやー、危ない危ない…」 言葉とは裏腹の余裕を見せる。刺客達は、この人外と呼ぶべき男に対して生涯で最大の苛立ちと焦りを覚えた。 <この男は司教の下に行かせてはならない!> 矢弩達は覚悟した。そして皆、一様に殺気立つ。その沸き立つ殺意を天慈は感じ取った。無防備な体勢から、左足を前に半歩出して両手をやや前に出して構え、正中線(頭頂部から金的までの、背骨、喉、眉間、鳩尾や経穴など急所が集まるライン)を守る。 そして刺客の数を正確に把握した。右の視界に三人、左の視界には矢弩を含む四人。 <ドえらい殺気や。玉砕覚悟で突っ込みよるな> 次の瞬間、左側の刺客達が迫る。今までで最も早い踏み込み。ナイフを失った二人が殴り掛かるも、無情にも鉄の様な硬い拳に頭蓋骨を砕かれた。 だが二人は最後の力で、這い付くばりながらも天慈の脚にしがみつこうとし、天慈はそちらを避けようと僅かに気を取られた。 それを逃さず右側の三人が刃を鞭の様に、槍の様に見舞う。それを天慈は捌くが、左側の刺客が突き立てたナイフを捌けず左肩で受けた。刺客は会心の手応えを確信する。だが刃は甲高い音と共に折れた。
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