刺客

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「なっ…!?」 矢弩達は天慈の着込んでいたジャケットに何か仕込まれていると認識した。そうでなければ説明が付かない。 「ツオォォオオッ!!」 拳が、肘が、蹴りが乱れ飛び、ナイフを捌かれた三人と、確かに刺した一人は呆気なく生を終えた。残ったのは矢弩と天慈。 「…あと一人」 天慈は矢弩を狙い澄ます。 <……> 矢弩は冷静にファイトプランを構築する。使える物は手持ちのナイフに手榴弾一つ、そして極めて丈夫な糸、周辺にあるベンチ、薮、石や土、亡骸。 しかし薮は己一人しかいない上に、入れば摩擦音で捕捉される為に除外し、残りを使う。 「セヤァッ!!」 素早い踏み込みと気合。先に天慈が仕掛けた。唸りをあげる右の正拳突き。矢弩は紙一重で天慈のさらに右側に逃げ、同時にこめかみ目掛けて左フックを打ち込む。 しかし躱された。上手く上体を反らしたのだ。その反動を利用し、天慈は左拳を繰り出す。矢弩はダッキングで避けた。返しの右アッパーカット。だが天慈はまた躯を反って躱す。 拳の応酬。しかし当たらない。下手なボクシングの試合より、遥かに洗練された動きだが、遂に天慈の右拳が敵を捉えた。殴り飛ばされた矢弩は、首がもげかねない衝撃に耐え、眼を大きく見開く。 飛ばされた先にあった亡骸は、支えが地中に深く埋もれた木製のベンチの近くに横たわっていた。 <よし!!> 亡骸を一つ天慈に向かって投げ付け壁を作り、糸と手榴弾を瞬時に括り付け、ベンチの支えに絡める。そして亡骸の一つにも括り付けた。 天慈の視界を一瞬しか塞げなかったが、充分な時間だった。矢弩は振り向き様に石を雨の様に、続け様に亡骸を二つ投げ付ける。 「だからどうしたぁっ!?」 吼えながら石を捌き、骸を掃う。糸が見えたが、構わずに突っ込む。
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