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夕暮れ、暦は四月に差し掛かる頃。
改札口を抜け、急ぎながら女性が歩く。若く見えるが歳は三十路。165cmのスレンダーな躯に、量販店で買い揃えたシャツにズボンという動きやすい服装を着込み、癖のある焦茶色の長髪を靡かせる。
駅前に小さな鄙びた喫茶店があった。女性は早足で向かいドアノブに手を掛ける。
カランカランとドアに取り付けられた小さなベルがなった。
「いらっしゃいませ」
アルバイトの女の子が愛想笑いと溌剌とした声で客を迎える。
女性は一人である旨を伝えると、カウンターに案内された。席に座り、白髪の目立つ店主にホットコーヒーと共に、別の事も頼んだ。
「取り急ぎ、仕事を頼みたいのですが」
急な話だった。
「どんな内容ですか」
幸い他に客はいないので、おおっぴらに出来た。
「誘拐された娘の奪回です」
女性は真剣な面持ちで話す。
「警察には?」
店主はとりあえず尋ねた。
「相手が悪いです」
不可解な返答。
「暗殺組織絡みですから」
店主は納得した。この手は確かに警察には荷が重い。相手は大抵は手練れである。
「お客さん、随分詳しいですね。ですが今すぐは流石に…」
店主が厳しい旨を伝えようとした矢先、またドアのベルが乾いた音をあげた。
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