会合

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キイ…と、山小屋の扉が軋みを上げながら開く。 「……来ましたか」 小屋の中は広く閑散としていた。フロアには机等は一切なく、白髪の混じるオールバックの初老の男と、栗色の髪の幼子が蝋燭の明かりに照らされている。 「楔斎…」 司音は忌々しげに名を呼ぶ。 「育ての親に対して、口の聞き方がなっていませんね」 「娘を巻き込んだ貴方に払う敬意など有るとでも?」 神秘性すら感じられる空間に漂う冷たい空気。その中で司音は鈴子を見る。恐怖で泣いていたのだろうか、目は少し赤かったが外傷は無く、少し安心した。 「この子には外傷は付けていませんよ」 楔斎は淡々と呟く。 「司音よ、率直に言いましょう。この子を返す代わりに、我が下に戻りなさい。神の教えを此岸に余す事無く伝える為に」 「断る!歪んだ教えなど、世界には不要だ!!」 対して司音は声を荒げ、拒絶する。 「フーム…」 楔斎はその様子を見て、顎に左手をやり、添えながら考える。刹那、何かに気付いたのか右手にナイフを軽く握りながら、小屋の…司音から見て右側の壁に並ぶ窓に近付く。 司音は動けない。動けば楔斎の握る凶刃は、間違いなく鈴子を目掛けて放たれる事が目に見えていた。 コツコツと鈍い音が響く。楔斎は幾つかある窓の一つに、迷い無く向かっている。 「こんな静けさの中では、伏兵など通じない」 無表情なまま、窓を左の裏拳で粉砕すると、その手は蛇が獲物に食い付くかの様にしなやかに、かつ素早く、屈んでいた大きな鼠を捕まえた。
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