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鼠はそのまま小屋の中に引き摺り込まれ、床に叩き付けられた。
「グッ…!」
「この程度で気配を消したつもりとは、若いですね、忍君」
忍にしてみれば、呼吸音も動揺も完全に殺した筈だったのだが、楔斎にとって、それは児戯に等しい物でしかなかった。
「我が部下達を相手に出来る程度には心得があるようですが、私を甘く見過ぎましたね」
やはり無表情で語る。が、同時に鈍くも強い駆け足の音が鳴る。楔斎と忍の視線が向けられた先では、司音が鈴子に近寄っていた。
「鈴子っ!」
母は娘を心配し手を差し伸べるが……払われた。
「!?」
司音と忍は驚きを隠せない。
「『おかあさん』じゃない…」
鈴子はそう言った。
「鈴子、何を言っているの?」
「おかあさんは鈴子の『ほんとうのおかあさん』をころしたんだ!」
娘のありったけの怒声に衝撃が走る。
「アンタ、まさか」
「目的の為なら嘘だってつく。ただ、司音があの子の本当の母親を死なせる一因だったのは真実ですが」
忍の疑問に平然と答える楔斎。
「あの手紙の内容は嘘か。おまけに…俺の名前を知っているという事は、俺達を襲った刺客か、薮辺りにカメラ等を仕込んで……」
「そう、映像を見せながら真実を話したのです。司音が教団の任務失敗に見せかけて行方を眩まし、その後……合法的殺人者として引き受けた仕事。当時、我々の存在を公に曝そうとした検事と、その家族の護衛の任務に失敗した事を」
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