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楔斎の語りに忍は苛立つ。
「司音が教団を抜けた直後に、我々、教団の人間が合法的殺人者から排除されてしまい、彼女の足取りを掴むのには苦労しましたよ。ですが…教団を抜けたばかりに合法的殺人者から足を洗う条件を満たす必要が出来たのです。一年間、殺人を平時、任務時ともに行わない事。並びに規定数の任務を遂行し、その間に得た報酬の75%を納めるという条件をね。教団絡みの仕事がある以上、いくら避けてもいずれ鉢合わせになるのは自明の理です」
楔斎はその鉄面皮とも呼べる無表情な顔を、破顔させた。
「その検事一家と司音は仕事を通じていく内に懇意となりましてね、お蔭で我々の妨害や圧力をことごとく掻い潜るので、非常に厄介でした。私を含む当時の教団上層部が下した判断は…抹殺」
忍は薄れた記憶を手繰り、気付く。
「確かに六年前、とある山中の廃屋に、何者かに検事と、その一家が連れ去られ殺害された事件があったが…まさか」
「物覚えが良いですね、素晴らしい。そう、未だ解決していない検事一家殺害事件の犯人は……我々です」
忍は驚愕する。同時に楔斎の満面の笑みに狂気を垣間見、憎悪する。
「あの時も司音は護衛をしていましたが、いくら彼女が優秀でも、私や矢弩、他にも手練れが相手ではどうしようもありません。結果、司音は子を産めぬ程の傷を負い、検事一家は還らぬ人に…。我々を裁こうと世間の下らぬ正義を貫いた末路は……嗚呼、なんと悲しい事か」
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