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忍は酔狂気味の楔斎の、左手による束縛を解くと同時に翻り、打撃を加えようとしたが、おぞましい殺気に怯み、手を出せなかった。
楔斎は、その行動に対して軽く拍手した。
「せっかく盛り上がってきたと言うのに。ですが危機から脱した事は素直に評したい」
「それはどうも。で、話の流れからすると、鈴子ちゃんは事件の生き残りで、先程アンタにホラを吹き込まれたってところか」
忍は楔斎の称賛を聞き捨て、母と娘が絶望に浸る原因を推測し、述べた。
「あの子は司音を信頼していましたから、何を言っても否定する。そこで戦う姿を見せてあげると、信憑性が簡単に出ましたよ。まあ、真実は…重傷を負った司音と、幼い我が子、つまり鈴子さんを救う事を条件に、あの子の両親が命を差し出したのですがね。司音には、護れなかったという自責の念がありますし、鈴子さんは、司音が実の母親ではないという事と、司音が一因で御両親が亡くなったと吹き込めば、あとは…絆とやらは自壊するのみ」
楔斎は泣きじゃくる鈴子と、どうする事も出来ずに声を殺して泣く司音を見て愉悦する。
「…アンタは司音さんを教団に戻す為に鈴子ちゃんを誘拐したんじゃなくて、六年前の犯行を完全な物にしたかっただけかよ…」
忍はかつてない程の怒りを湛えながら問いかける。
「そう、全ては神の教えの為に、邪魔者を駆逐する」
楔斎はそう言ってナイフを鈴子に向かって撃ち放つ。
「逃げてっ!」
忍の叫びも虚しく、ナイフは鈴子を貫く…筈だった。
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