2人が本棚に入れています
本棚に追加
「しっ…司音さん!!!」
司音の背にナイフが刺さる。咄嗟に反応したのか、我が身を盾にして母は娘を護ったのだ。
鈴子の涙は止まり、眼前の事実に茫然とする。
「無駄な事を」
楔斎の呟きに、とうとう忍は我慢の限界を越えた。繰り出した拳足は、楔斎が映像で見たそれを遥かに上回っていた。
「む…」
全て捌くも、粗削りだが急所を狙い、素早く打ち込むその技術に楔斎は感心した。
「テメエは許さねえっ!!」
鬼の如き剣幕で、忍が楔斎を攻める。
「だったら何だと言うのです?この私を殺しますか?」
楔斎は全て紙一重で躱す。と、同時に改めて戦法を分析する。
〈…ふむ。脛より、靴の爪先や踵部分を利用した蹴りが主体、時折拳打が混ざる……。膝蹴りなども使ってくるか…。ならば…打撃を捌き、組技で仕留める!〉
忍は速度を増していくが、単調な攻めだった。喉元を狙った横蹴りを掴まれ、そのまま変則の背負い投げを見舞われた。
「ウッ、グアァッ!!!」
脳天から床に叩き付けられ、視界が歪み全身が痺れ、忍は痛みのあまり、のたうち回った。
「あと一撃…」
楔斎が踏みつけようとしたその時、小屋の扉が開いた。
「楔斎様!」
矢弩だった。楔斎は指示を出す。
「彼女達に神の御慈悲を」
トドメの合図に、矢弩は溢れる歓喜を押し殺しながら司音と鈴子に迫った。
「鈴子…聞いて。お母さんは確かにお母さんではないけれど、鈴子の事を本当に娘として…大事にしていたのよ。それだけは信じて…」
司音はそう言いながら、弱々しくも立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!