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楔斎は天慈を睨み、そして口を開いた。
「あまり人間に気を許さないと言われる鬼人が、合法的殺人者として活動しているとは予想外でした」
「鬼人が組織に属したら駄目なのか?食い扶持稼ごうと思ったら、何処かで働くのが普通だろうが。一つの教えに染まりすぎて、知性は退化したみたいだな」
天慈は機嫌が悪そうに、かつ侮蔑を込めて反論した。
「生活の面から考えれば、確かに貴方の仰る通りですが……我々の教義を侮辱する事は赦しませんよ!」
「ケッ!平気で他人を蹂躙する人間が偉そうに。貴様みたいな連中が世の中に蔓延りすぎてるからいけないんだ。とっとと掃除せんとなぁ!」
互いに怒り心頭であった。楔斎は刺客達と同じ構えを取り、天慈は腕をだらりと下げたままの自然体で対峙する。
次の瞬間、二人は目にも止まらぬ早さで間を詰めて、打撃を繰り出していた。二人の右拳が交差し、互いの頬を掠める。続けざま、拳が、肘が、膝が、足が放たれ、それを互いに捌きつつ、相手の隙を窺う。
一方、忍は漸く動ける程度に痛みが抜けたのか、立ち上がって司音と鈴子の下に向かい、倒れた司音の傷を確かめる。
「背中…に刺さっているけど、背骨からやや右に外れたか。心臓とか脊髄は問題ないとして、肺は際どいか?」
下手にナイフを抜くと出血しかねない為に、安静にするのが精々と判断し、鈴子にもその旨を伝えると、天慈と楔斎の戦いに目をやった。
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