第一章

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「いつもの馬鹿でうるさいそなたに戻って出直して来い!  しからば……同盟の話。承諾してやろうぞ」 「っ……も、毛利……!」 鬼は目を見開き、嬉しそうに笑う。童のような笑顔。 「だから、今日はもう帰れ。  我は……もう疲れた」 「ああ! ああ!!」 嬉しそうに笑いながら離れていく。最後にぴたりと立ち止まると、踵を返してこちらに振り向いた。 「……? 何だ?」 「……ありがとな。  ――元就」 「ッ!?」 ―――元就。 そう呼ばれたのは、初めてだ。 名を呼ばれて、なぜこんなに胸が高鳴るのだろうか? 名を呼ばれて、なぜこんなに嬉しいと感じるのだろうか? 答えは……何となく、判ってしまった。 「馬鹿者。早く帰れ!  ――元親」 「もっ、毛利っ!?  いいい今っ、俺のこと……元親って言ったよな! なっ!!」 「……フンっ」 「うわぁ! 何か俺、人生で今一番嬉しいかもしれねえ!!」 がばっと抱きついてくる鬼。 「ばっ馬鹿者!! 離せッ」 「元就ぃぃぃっ」 「離せッ! 離さぬかこの馬鹿鬼ッッ!!」 バキッ 「ぶふっ」 思い切り殴ると、鬼は涙目で殴られた場所をさすりながら頬を膨らませた。 「殴ることねえじゃんか」 「妙なことをするからだ」 「だって……嬉しかったから」 「何がだ?」 「お前に名前呼ばれたことに決まってんだろ」 「なっ……」 「お前下の名前で呼ばねえだろ? いつも名字か駒かのどっちかだしよー……」 「それは……」 「だからお前に元親って呼んで貰えて、嬉しいぜ」 言いながらふわりと微笑む。 「!!」 ここまで優しげな笑みを見たのは、初めてかもしれない。
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