第一章

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鬼は黙ったまま、 ただ我を視ている。 「………」 「………」 ―――ほら。 何も言えぬのであろう? 何も言葉が見つからないのであろう? 「……何をしている?  即刻ここから立ち」「嫌だ」「ッ!?」 不意に鬼は声を発した。 『嫌だ』 だと……? 「……嫌だ」 「〰〰ッッ!!  なぜだ! なぜ帰らない!!  我が帰れと申してておるのだぞ!」 「……帰らない」 「貴様は馬鹿か!?  我と貴様は敵なのだぞ!  なぜ……っ」 珍しく声を荒げる我に、 鬼はふわりと微笑んだ。 「……うん。  そんなこと、判ってる」 「!」 「……アンタは平気なのか?」「……?」 「ずっと独りで。  誰に頼ることもなくて。  氷の瞳で。  冷酷非情を装って。  アンタは……本当は……」 ……判る。 この鬼が何を言おうとしているのか。 この言葉を聞いてはならない。 この言葉を聞いたら、きっと、 ―――我が我ではなくなってしまうような気がするから。 聞くな 言うな―――!!
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