第一章

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「溝……? 何故溝を感じる? 貴様らはいつも団結していたではないか」 我が疑問を口にすると、鬼はふるふると首を横に振った。 「違う。俺が言ってるのはそうじゃねえ」 「では、何だと申すのだ?」 「………」 鬼は黙りこくってしまった。 余程言いにくいことなのか、 或いは言う度胸がないのか。 「……長曾我部」 「!? なっ、なんだっ?」 いきなり口を開いたのに驚いたのか、鬼はびくりと飛び跳ね、素っ頓狂な声を上げる。 我は鬼から一歩離れると、今では弱り切った鬼を見据えた。 「……貴様が貴様の言う子分とやら共に溝を感じているなど、我にはどうでも良いことだ」 「……っ」 鬼は顔を歪める。 これ位は承知の上だ。 「我は何ものにも縛られぬ。  縛られて……囚われるなど御免だからな。  我には心など必要ない。  心など……持っているだけ無駄だ。正確な判断を鈍らせる。  我を判るのは……解るのは。  ……我一人でよいのだ」 「……毛利……」 「……だが、貴様は違った」 「!」 「貴様だけは……我を認めていた。気にかけていた。  我が何を言おうと、何をしようと、貴様は諦めはしなかった。受け入れようとしていた。  我と貴様は敵同士。  瀬戸内を賭ける敵同士。  それを知りながら……」 ―――そうだ。 周りが何を言おうと、こやつだけは違った。 今の四国・土佐の勢力――長曾我部軍の勢力――ならば、我の束ねる中国・安芸を潰すことは可能のはず。 ……だが、鬼が手を出すことはなかった。 瀬戸内を巡る戦は多少あったものの、国に手を出すことはなかった。 それどころか、同盟まで申し出てくるくらいである。 馬鹿としか言いようがない。 「貴様……我と同盟を組みたいと申しておったな?」 「へ? あ、ああ、まあ」 鬼は一瞬目を見開くと、慌てて頷いた。 「……今のそなたとは、同盟を組もうとは一匙ほども思わぬ」「毛利……?」 「だから……」 我はすうっと息を吸う。 そしてこう言うのだ。
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