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「化粧道具は持ってるの」
私が尋ねると、香澄は一応と頷いた。
そうだ、と佳代子がはしゃいだ声を上げた。
「理沙やったげなよ。美容専門学校行くんでしょ」
「そうなんですか?」
香澄が尊敬の眼差しで私を見上げた。
突然矛先を向けられ、私は狼狽した。
進路調査票に何を書けばいいのか分からず、とりあえず姉が通う専門学校の名前を書いただけなのだから。
「行こうかなってだけで、上手いわけじゃないし」
「でも人に化粧するのは楽しいんでしょ?」
「うちらも見てみたいし。藤崎さんの劇的ビフォーアフター」
亜由と真紀にまで賛同されて、私はもう頷くしかなかった。
断れば空気が読めない奴だと影で囁かれるのは目に見えている。
「じゃあ、化粧道具貸して」
よかったあ、と歓声を上げたのは香澄ではなく佳代子だった。
「あたし、そろそろバイト行かなきゃだからさ。写メ撮っといてよ」
目を丸くする私をよそに、佳代子はさっさと荷物をまとめて出て行ってしまった。
残る二人も、デートの待ち合わせだの夕飯の買い出しだのと訊いてもいない言い訳をして、そそくさと佳代子のあとにしたがった。
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