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模倣は最も純粋な追従の在り方だ。 私たちは言葉も覚えないうちから、誰かに受け入れられたいという欲求を本能に刷り込まれている。 そのことを自覚して、どうにも遣る瀬無い気分になった。 社会性と言えば聞こえはいいけれど。 理由なく笑う香澄の姿は、ビデオの幼児を彷彿とさせた。 しかしいざそれを説明するとなると、急に面倒くさくなってしまった。 小賢しい理屈を口にするのは、私のキャラではない。 そう結論づけで、可愛かったよねと微笑むに留め。 香澄の手から化粧ポーチを受け取り、中身を机に並べていく。 必要なものは揃っている。 どれも同じブランドだった。 勧められるまま一式買ってしまったのだろう。 断り切れない香澄の姿が容易に想像できた。 「試してはみたんだね」 パウダーファンデーションの表面がやや削れている。 「はい」 「ねえ、藤崎さんってなんで敬語なの」 姿勢よく座ったまま、香澄は困ったような顔をした。 私は頬杖をついて、面接官にでもなったかのような気分でじっと香澄を見下ろした。 「あんまり話したことがないから、ちょっと緊張して」 「ふうん」 とすれば、尻すぼみな喋り方もですますを省くための工夫なのだろうか。 呆れる反面、妙に感心した。
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