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「磯山さんたちには、最初からタメ口じゃなかった?」 磯山さんというのは、香澄が行動を共にしているグループの一人だ。 地味な人呼ばわりも失礼な話なので、クラスの女子を派手か地味かでざっくり二分して、地味なグループに分類される女子の中でもわりと明るい磯山さやかを代表して、「磯山さんたち」と呼ぶのだ。 不文律とでもいうのだろうか。 「磯山さんたち」も、派手なグループの女子を総称して「塚地さんたち」と呼ぶ。 塚地というのは、佳代子の苗字だ。 「さやかちゃんは話しかけやすかったから……」 香澄は困ったような顔のまま、小さな声で呟いた。 「あ、でも片瀬さんたちが話しかけにくかったわけじゃなくて」 同じタイミングで同じことを考えたらしく、香澄は慌てて弁明した。 片瀬というのは私の苗字だ。 「分かってるよ」 私は鷹揚に頷いた。 すべては、「塚地さんたち」と「磯山さんたち」の間に存在する壁のせいだ。 目に見えるものではない。 しかし、絶対的なものではある。 私は今の短いやりとりで、壁の存在を改めて再認識した。 満足すると同時に自分の幼さが恥ずかしくなって、それをごまかすために咳をした。 一連の流れがどこか芝居じみていて、今度こそ本当に苦笑が漏れる。
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