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「でさー、あの時のエコロがとった行動というのが……」
「それは大変だったね☆なんにせよりんごちゃんが無事で良かった☆」
日も傾いてきたころ、私はまぐろくんと一緒に下校していた。家が近いため、これが日常的な光景である。
あれやこれやと駄弁りながら歩いているうちに、私たちは『すずらん商店街』と大きく描かれたアーチをくぐった。別に買い食いをしようとかそういうことじゃない。むしろ、私たちは売る側。商店街の一員なのである。
「それじゃあ、りんごちゃんまた明日☆」
「うん、佐々木まぐろくんもまた明日ー」
とある魚屋の前。ショーウインドウに見立てたオサレな『いけす』から、魚がのんびり気ままに泳ぐ姿が見える。今日は……ナマコにクラゲ、ウミウシにシーラカンス?これ食べられるんですか?まぐろくんの実家、『魚佐々』だ。
まぐろくんとはここで別れ、私はその数軒先に建つ『安藤青果店』へ入った。こちらは良く言えば昔ながらの、悪く言えばしみったれた八百屋だ。お店はまだ営業中で、私のお母さんが店番をしていた。
「お母さん、ただいまー」
「あらりんご、お帰り。ちょうどよかったわ、配達に行ってくれない?」
「え、今から?」
「急に頼まれたのよ。お父さんは今出かけてるし、お母さんは店番だからりんごしかいないのよ」
「はいはい、分かったよ」
私は適当な私服に着がえ、店先にもどった。自転車の荷台に野菜の入った箱をくくりつけ、配達先を確認して、これで準備オッケーだ。
「そうそう、ついでにみかんちゃんを探しといて。あの子、また脱走してるから」
「またですか……」
みかんちゃんというのは、わが家で飼っている犬(雑種?・♀)のことで、脱走ぐせのある困った子だ。まあ、ほっといても夜になればちゃんと帰ってくるんだけど。
「じゃあ、行ってきまーす」
「暗くなるから交通事故に気をつけるのよー」
商店街の中では自転車に乗ってはいけない決まりだ。 私はお行儀良く自転車を押して歩き、きっちり商店街を抜けてから漕ぎだした。
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