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「うちに用でもあんの?」
「い……いや、配達の帰りなんだけどね。ちょっとうちの犬を探してたらここに来たというわけで」
「あー、こいつのこと?」
さやかはみかんちゃんの頭をなでて、パンの耳をひと切れやった。みかんちゃんはしっぽをパタパタと振って、とても嬉しそうにまぐまぐと平らげた。
「もうみかんちゃんてば……あんまり食べるばっかしてると太るからやめなさい」
私はみかんちゃんをムリヤリ抱きあげた。みかんちゃんは『もっと食べたいのに……』的な、哀愁ただよう視線を送ってきたけれど、そんなものに騙される私ではございません。
「別にいーじゃん、そいつの食べ歩きは今に始まったことじゃないんだし。うちにもしょっちゅう来るし、肉屋でコロッケとか、駄菓子屋でおかしとかもね」
「え、それほんとに?」
「ちなみに今のお気に入りは『かば焼き次郎』らしいよ?」
「な、なんですとーー!」
駄菓子屋は初耳だ、みかんちゃんはまたいきつけのお店を増やしたのか!
「そーそー、こないだなんかさ、学校の近くにうどん屋が新しくできたじゃん。あっこでうどん食べてたわこいつ」
「えええーーー!!ちょっとみかんちゃん、いったいどこまで行ってるの!」
「わん、わん!」
なんというか……もうお手あげです。首輪をつけてもいつのまにか外されてるし、果たしてこれは本当にわが家の犬とよべるのか、はなはだ疑問に思う私なのであった。
「ははっ、まーそんだけ食べといて太ってないとか、逆にすごいじゃん。うち的にはうらやましい限りよ」
「たしかにそれはそうだけど……でもやっぱり、食べものはあんまりやらないでよね……」
「はいはい……っと、そろそろネコが殺気だってきたわ」
さやかは、パンの耳をひとつかみ取って、今か今かと目をギラつかせているネコ軍団の上にばらまいた。とたんに争奪戦がまきおこる。
その光景は、なぜかバーゲンセールにむらがるおばちゃん軍団の姿を彷彿とさせた。ああ、小さいころデパートでお母さんのそんな姿を初めて見たときは、ショックだったなぁ………
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