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「これは見なかったことにするべきなのか……?」 私はそう言いつつも、もう一度その紙を眺めた。 “もしも幕末に行けたなら” ・身分とか攘夷とか開国とかいろいろあって、正義も悪もぐちゃぐちゃで、そのせいで苦しんでいるっていうか、とにかく困っている人を助けたい。 ・有名人に会いたい!! 例えば坂本竜馬とか!!←これ重要☆ ・歴史とか変えるつもりはないんだけど、あの人たち……新撰組の力になりたい。力になれなくてもいいから、彼らの生き様を見てみたい。 ・できることなら、……普通は出来ないけどさ、結核で死んでしまう沖田総司の病気を治してあげたい。 「……箇条書きならもう少し簡潔に書けよ、陽菜……」 彼女らしい文体に苦笑しつつ、私はその紙を眺め続けた。 ──陽菜のおかげで幕末には詳しくなった。と言っても、思想の違いや人物名、幕末の歴史を覚えただけに過ぎない。 理解が追いついていないから、陽菜ほどの思い入れもない。だから、あの箇条書きの願望も理解しがたいな。 陽菜の願いは叶えてあげたいけど…………これはさすがにね。 そう思いながら、“もしも幕末に行けたなら”という部分を指でなぞった。 過去の“もしも”が叶うのならば、あの時私も彼女のように紙に書き出して声に出して読み上げたことだろう。 しかしそうしなかった。 叶わないと理解していたからだ。 過去は二度と変えられないと。 それでも彼女は願わずにはいられなかったのだろう。
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