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にっこり笑う彼女に微笑み返し、横目で周りを一瞥した。
奉公人たちは複雑な表情を浮かべ、一色もある意味で複雑な顔つきをしていた。
壬生浪士組の隊士は風月亭から少し離れた位置で待機し、隣の沖田は目が合うといつもの笑顔をみせてきた。
鈴から一歩、二歩と離れ、一色の隣に並んだ。
嫉妬を含む目で見てくる彼に口元をにやりと上げてみせ、「頑張れよ」と意味深に言った。
ちゃんとその意図を汲んでくれたのか、「余計なお世話だ」と顔を赤くして返された。
そして沖田の隣に並び、奉公人たちも含めて全員を見渡した。
最後に雷光へ焦点を定めると、口を開いた。
「オレはただこの状況から逃げていただけなんだと気づかされました。皆を傷つけるのが怖いから、自分が傷つくのが怖いから。でも、もう逃げません。皆のことは守ります、守ってみせます。それを、伝えたかったんです」
私は足を揃え、背筋を伸ばすと、一色、鈴、琴、雷光の順に目を合わせた。
そして───。
「ひと月の間、お世話になりました。ありがとうございました」
誠意を込めてそう言い、深く頭を下げた。
そして顔を上げて改めて彼らを見た。
それぞれ思うことはあるのだろう。
しかし、笑顔で私を送り出してくれるようだ。
──数日前とは大違いだ。……なんて心地良いんだろう。
私はなにも言わずに微笑み、沖田を見上げた。
彼は頷くこともせず、しかし、私の言いたいことを理解していた。
雷光たちに一言別れを告げて先に歩き出し、私も、最後に軽く礼をして彼の後を追った。
背後から、温かな視線を感じ続けた。
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