13.

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こちらに視線をやってきた原田の言葉に、私はぼそっと呟いた。 前の世界ではちゃんと血色は良かったわ!!と叫びたかったが、前の私を知らない彼らに言っても仕方ない。 作ってくれた人を目の前にして残り物があるのに少しの罪悪感を抱くが、大の大人──それも男の一人前のこの量を食べきるのは辛い。 特にご飯。 「新八、お前は稽古だろうが。斎藤が待ってるぞ」 「あいつはあいつで勝手にやってるだろ。……うしっ、ご馳走さんでした!!じゃあな、朔。元気に過ごせよ」 すごい勢いで食べていた永倉は、食べきるや否や、突風のように走り去っていった。 彼なりに、隊士を待たせまいとしているのだろう……と信じたい。 「ったく、あいつはいつもこうだな」 「だんだん慣れてきたよ。……はい、ご馳走様でした。膳を下げに来たんだろ?」 「ああ、そうだ。それが目的だったな」 原田は私が差し出した食器を受け取り、背を向けた。 彼は障子のところまで来ると一度振り返り、「次は食べ切れよ」と言い残して消えた。 原田左之助。彼も永倉や藤堂と同じく副長助勤の一人だ。 体格がよく、常に色気を放っているのが特徴的だ。 騒音トリオの一人でもあり、主に永倉のツッコミ役を担っている。 比較的料理上手で、彼単体だと常識人である。 つまり、永倉が騒音の主な原因なのだ。 そして、陽菜から彼に関して一言だけ聞いたことがある。 『原田左之助とは目を合わせるな。合わせただけで、孕む』と。 ──昼餉は頑張って食べきろうか……。 いつものご飯の量を想像し、やっぱり無理、と心の中で諦めた。 そして食後の運動という名目で部屋を出ることにした。
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