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土方は私たちとの距離を二メートルほどあけて立ち止まり、眉間のしわを深くして睨んできた。
これが一般人なら、蛇に睨まれた蛙状態だ。
「ほらっ、朔君早く」
「……人の世の、ものとは見え───」
「てめえらぁぁぁあああ!!」
土方を鎮めるという魔法の言葉は、言い切ることなく効力も発さずに終わった。
土方の額に青筋が浮かび上がり、容赦なく手に握られているモノが振り下ろされた。
危ない、と思って沖田に声をかけようと思えば、いつの間にか逃げたのか、すでに姿はなかった。
私は反射的にその刀を避け、土方と距離を置いた。
──…………これ、完全に逆効果じゃん!沖田さん、次はオレで遊んだな。
逃げながらほくそ笑んでいる沖田が目に浮かび、いつか仕返ししてやる、と心に決めるも、この状況から抜け出せない限り私に明日はない、と悟った。
怒りで我を忘れていそうな土方をどう止めるかなど、私が知る由もない。
ついに斬りかかってきた彼の刃から逃れようとしたが、ふと逃げる意味を見失った。
私は新撰組を守ると言い、たとえそれが仲間内の喧嘩でも、傷つくのは守れなかったも同然だろうと思ったのだ。
それに、斬られただけじゃ私は死なない。
逃げようとした体の動きを止め、ぎゅっと目を瞑った。
刀はすぐそこまでやってきていた。
……しかし、いつまで経っても体に刃が喰い込まない。
あの、焼けるように熱い痛みもない。
そっと目を開けてみれば、刀を鞘に納めている土方が目に入った。
彼の顔からは青筋も消え、眉間のしわがいつも通り不機嫌そうにあった。
「お前、総司に教えられたことは忘れろ」
「なんで?」
「忘れろ。いいな?」
「……はい」
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