13.

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斎藤一は、副長助勤の一人だ。 細身で背が高く、とても落ち着きのある人だ。 あの騒音トリオとは天と地ほどの差がある。 しかし、先ほども述べたように、彼は私の父・宵智に似ている。 寡黙なところや感情の籠もっていない口調、なにを考えているのかわからないところや、底の深い瞳。 よく見れば、顔もどことなく似ている。 彼がこの世界での宵智なのかもしれない。 鈴がこの世界の陽菜であるように。 ということで、私は彼が苦手だ。 会う度に、見かける度に緊張してしまう。 だから、極力視界に入れないよう努めている。 例の広場のような場所まで来ると、離れへの道へ進んだ。 斎藤にも大人しくしていろと言われたので、当分は大人しくしていようと思った。 しかし、予想だにしない人と出会ってしまった。 正直、この人たちに会う心の準備はまったくできていなかった。 彼らの──特にあいつの姿を見た瞬間、あの時のことが一瞬にして思い出され、怒りが爆発しそうになった。 「!!あんたは!!」 「貴様は、風月の異人」 お互い、目を見開いていただろう。 先頭を歩く彼も、その後ろに続く彼らも、私の見目にというより、ここにいることに驚いているようだった。 私も、なぜこの前川邸に彼らがいるのかが謎だった。 壬生浪士組屯所は、実は二つの家から成り立っている。 私が住んでいる離れのある家は前川邸と呼ばれ、ここは隊士の数が多くなり、前の家が手狭となったため、新たに間借りしている家だ。 元々は、今、彼ら──芹沢派が住んでいる家、八木邸だけだったらしい。 つまり、屯所は八木邸と前川邸で成り立っており、現在は八木邸に芹沢派が、前川邸には近藤派と隊士たちが住んでいるのだ。 その八木邸に住む彼ら芹沢派が、なぜ前川邸に顔をだしているのか。
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