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先に目を逸らしたのは平山の方だった。
彼は視線を芹沢にやり、一礼すると私をもう一度睨みつけてから裏口の方へ歩き出した。
そんな彼を、芹沢派の一人であろう、長身で髭の生えた男が急いで後を追った。
残ったのは、私に芹沢、新見、そしてもう一人の芹沢派の男だ。
私は平山が姿を消すと、なにも言わずに部屋へ戻ろうとした。
新撰組の役に立ちたいとは言ったが、どうしても彼ら芹沢派には壁を作ってしまう。
それもこれも、あの夜の出来事が原因なのだが。
「待ってよ、異人さん」
歩き出そうと一歩を踏み出したところで、着物の袖を強く引かれた。
予想だにしていなかった力に、危うく後ろへ倒れるところだったが、なんとか踏みとどまった。
そして犯人を睨むように振り返れば、そこには平山と同じくらいの身長で、坊主頭の男がいた。
坊主といっても、お坊さんとかではなく……そう、野球少年のような坊主だ。
日に焼けた肌も、それっぽい。
その男は残りの芹沢派の男であり、いまだに袖を掴んだままで、きらきらした瞳で私を見ていた。
「……オレは異人じゃない」
「じゃあ、異人紛いさん?」
「…………」
小首を傾げて言う様は、なんとも可愛らしく、おそらく彼はマダムキラー。
姉御肌の女の子にはもってこいの男だろう!……などと、変な方向へ思考が飛んでしまうほど、彼の発言は失礼なものだった。
しかし、これを失礼なものだと彼は感じていないようで、いまだにじっと私を見つめてくる。
つまり、彼は天然君。
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