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「はい、そうなの。だからlet go of me(私から手を離せ)」
「??今のって……メリケン語?」
「だったら?」
「じゃあ、メリケン語教えて」
「はあ?!」
私への興味も失せ、ようやく袖から手を離してくれるかと思いきや、野口は再びしっかり掴むと、先ほどよりも強い力で私を引いた。
完全に引きずられる形となり、私は自分の言動に後悔した。
癖になっていた英語もぬけていたというのに、なぜこんな時に言ってしまったのか……。
ふと、野口は私を八木邸に連れて行きたいようだが、そこの主であろう芹沢はどうなのだろう。
もちろん、嫌なんだろうと決めつけ、なんとか野口の力に抵抗して立ち止まると振り返った。
「ねえ、こんな奴普通家に上げたくないだろ?あんたもこいつになんか言ってやってよ」
「……そうだな、わしもその異人と話したかったところだ。野口、そいつをわしの部屋に連れて行け」
「はい、芹沢先生」
芹沢からの許しと命令が出たところで、野口の力はさらに強まった。
なんとか抵抗していた私の力は呆気なく負け、先ほどよりも酷い体勢で引きずられることとなった。
この男、野球少年という見た目通りに腕力があるのか?!と必死にもがきながら思った。
ちらりと後ろを見れば、私を逃がすまいと、少し距離をあけて芹沢が悠々と歩いていた。
その後ろには、呆れた顔でため息をつく新見の姿もあった。
この状況に、私は逃げ出せないことを確信した。
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