13-(2).

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「新見、どうかしたか」 「───いや、なにも。おれは部屋に戻る。野口、行くぞ」 「ええー、僕はまだここにいたいです」 「野口」 「……わかりましたよぉ。では芹沢先生、失礼します。朔っ、またメリケン語教えてくれよな」 目の前の新見が退き、ようやく芹沢と野口の姿が確認できた。 芹沢は新見と入れ違いで室内へ入り、野口は新見が先に出るのを待ってから部屋を去っていった。 静かに閉まる襖の音が響き、二人の遠ざかっていく足音が聞こえた。 それも聞こえなくなると、芹沢が声をかけてきた。 「いつまで突っ立っておるきだ?」 「……あんたこそ、いつまでオレを待たせる気だったんだ?」 そう言いながら、座っている芹沢からなるべく距離を置いて腰を下ろした。 芹沢は近くの徳利に手を伸ばすとそれを振り、中身を確認していた。 ほとんどが空のようだったが、入っているものを見つけたようで、お猪口をどこからともなく出して呑み始めた。 私はつい、中庭から見える空を確認した。 もちろん太陽はまだ、真上に位置している。 「陽はまだ出てるけど……?」 「それがなんだ?沈む前に呑んじゃいかん、ということもないだろうが」 「それもそうだ」 そこで一旦、会話は途切れた。 酒を注ぐ音がやけに耳に響き、手元にやっていた視線を上げて芹沢を見た。 彼は私の存在を忘れているのではないかと思うほどに、のんびりと、ゆったりとした動作で酒を呷っていた。 「あのさ、話があるんじゃなかったのか?」 「…………せっかちな奴だな、貴様は。ゆっくり酒でも呑みながら、話そうと思っていたものを───」 芹沢はそう言って、持っていたお猪口を畳の上に置いた。
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