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「新見、どうかしたか」
「───いや、なにも。おれは部屋に戻る。野口、行くぞ」
「ええー、僕はまだここにいたいです」
「野口」
「……わかりましたよぉ。では芹沢先生、失礼します。朔っ、またメリケン語教えてくれよな」
目の前の新見が退き、ようやく芹沢と野口の姿が確認できた。
芹沢は新見と入れ違いで室内へ入り、野口は新見が先に出るのを待ってから部屋を去っていった。
静かに閉まる襖の音が響き、二人の遠ざかっていく足音が聞こえた。
それも聞こえなくなると、芹沢が声をかけてきた。
「いつまで突っ立っておるきだ?」
「……あんたこそ、いつまでオレを待たせる気だったんだ?」
そう言いながら、座っている芹沢からなるべく距離を置いて腰を下ろした。
芹沢は近くの徳利に手を伸ばすとそれを振り、中身を確認していた。
ほとんどが空のようだったが、入っているものを見つけたようで、お猪口をどこからともなく出して呑み始めた。
私はつい、中庭から見える空を確認した。
もちろん太陽はまだ、真上に位置している。
「陽はまだ出てるけど……?」
「それがなんだ?沈む前に呑んじゃいかん、ということもないだろうが」
「それもそうだ」
そこで一旦、会話は途切れた。
酒を注ぐ音がやけに耳に響き、手元にやっていた視線を上げて芹沢を見た。
彼は私の存在を忘れているのではないかと思うほどに、のんびりと、ゆったりとした動作で酒を呷っていた。
「あのさ、話があるんじゃなかったのか?」
「…………せっかちな奴だな、貴様は。ゆっくり酒でも呑みながら、話そうと思っていたものを───」
芹沢はそう言って、持っていたお猪口を畳の上に置いた。
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