13-(2).

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いや、何時間も待たされてゆっくりもなにも……、と口から出掛かったが、なんとかそれを呑み込んで彼を見据えた。 ようやく、本題に入るようだ。 「わしは遠回しに訊くのが嫌いだ。はっきり問う。なぜ貴様はこの壬生浪士組に入隊した?あの日、貴様は入らないとわしに告げた。それが一時的な感情であったとしても、そう言った。だがしかし、貴様は今、ここにいる。なぜだ?」 そんなことを訊かれるだろうと予想はしていたものの、前置きなく直球に訊かれて少したじろいだ。 すごく真剣な眼差しで見つめられたせいでもあると思う。 一応用意しておいた回答はすっかり頭から飛んでしまっていて、思考時間を随分要した。 その間、芹沢はじっと私を見据えたまま喋らず、どこかで遊んでいる子供の声だけが、この室内に響く唯一の音となっていた。 「あんたが言ってた、壬生浪士組を知って……ではないよ。もちろん、あの事件でお世話になって、知った部分はある。近藤派の人たちは良い人たちだってことが、その一つだ。 だけど、それとこれとは話は別。好きになって来たわけじゃない、渋々来たわけでもない。ここにいることが最善だと判断して来たんだ」 「それは、壬生浪士組の役に立つためのか?」 「!!……あんた、いつそれを」 「貴様が野口と仲良くしていた頃だ。わしに貴様の入隊のことを伏せていた近藤に問いただした。まあ、途中で土方と山南が来て、詳しくは訊けなかったがな」 話の途中で追い出された割に、芹沢の口調はとても愉快そうだった。 口元も、微かに笑っているように見える。 敵対してはいるものの、それほど仲が悪いというわけではないのかもしれない。 近藤派がやけに芹沢派を嫌っているだけで、芹沢派──特に芹沢自身はあまりに気にしていないように思えた。 その食い違いに、私は心の片隅で首を傾げたが、突然鋭い眼光を送られ、思考は一時ストップした。 土方の睨みも怖いが、芹沢のそれははるか上を行く。 完全に、蛇に睨まれた蛙の状態だ。 瞬きさえできない。
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