14.

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「知らない」と続けたかったが、そういえば昨日その理由を訊いたな、と思い出した。 確か、芹沢と似ているから、だとか。 そんなことを考えていると、沖田は変なところで言葉を切った私を再び覗き込み、続きを促してきた。 しかし、「あんたには関係ない」と一言言えば、素直に口を噤んだ。 さして興味もなかったようだ。 「それで、結局あんたは承諾したわけね。オレが芹沢筆頭局長の小姓になることを」 「ああ。だが、お前にそう簡単に屯所内を動き回られるのも嫌なんでな、範囲は限定した。お前が行き来して良いのはこの離れと前川邸の調理場、それと八木邸だ。幹部といる場合のみ、屯所内一帯を許可する。加えて、他出時には俺に許可を得ること。これが小姓になる条件だ」 「条件って……今とあんまり変わらないじゃん」 「芹沢に釘を刺しとくためのものだ。お前を簡単にあっちこっち連れて行かないためのな」 「ふーん」 私を守っているとでも言いたげなその発言に、少し納得はいかないものの、彼なりに考えてくれたのだろうと思って頷いた。 「話は以上だ。芹沢からは、昼餉後に八木邸に来させろ、と言われてる。さっさと行けよ」 「オレ、小姓の仕事わからないんだけど」 「芹沢派の──野口あたりに教えてもらえ。だがそうだな……総司、お前も一緒に行け」 「ええ!!なんでですか」 「八木邸までの付き添いだ。ずっと、ってわけじゃねぇ。ただ、芹沢にこいつを任せるようなもんだ。俺の代わりに挨拶して来い。俺は忙しい」 「…………わかりました。それじゃあ朔君、行きましょうか」 沖田は数秒、土方の目をじっと見ていた。 彼の瞳の奥にある、なにかを見定めるように。 そして沖田は肩を竦めてみせると静かに立ち上がり、土方に挨拶もなしに出て行った。 その背を私は急いで追おうとしたが、部屋を出て行く前に土方に呼び止められた。 振り返って彼を見れば、彼はゆっくりと立ち上がり、目の前にやってきた。 見上げた彼の目は、真剣そのものだった。 「気を付けろよ」 土方はそれだけ言うと、私の横を通り過ぎて先に部屋を出て行った。 それがどういう意味なのか解らないが、やはり芹沢派は要注意人物たちなのだろう。 私はすでに姿の見えない沖田を探しながら、離れを後にした。
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