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どれくらいそうしていたのかは分からない。
しかし地面の上の葉が踏みしめられる微かな音で、私は我に返った。
涙を拭って後ろを振り返ってみれば、そこには先ほど逃がした女が、心配そうな眼差しで私を見ながら恐る恐る姿を現した。
私はなぜ彼女がここにいるのか理解できず、ただ首を傾げた。
「あの……先ほどは助けていただきありがとうございました」
「ーーーなんであんたがここにいる?」
「それはその……助けてくださった方を残して去ることができず、…………隠れておりました」
「ああ、なるほど。……結果として、オレはあんたをちゃんと助けられたし、オレもこうして怪我一つしてない。だから……もう帰っても平気だよ」
私は女にそう言って笑った。
女は頬を少し赤らめ、「ですが」となにか続きを言いたそうで、帰る気配をみせなかった。
しかし私はカバンをどこかへ置いてきたことを思い出し、それを探すので忙しくて彼女に構っている暇がなかった。
辺りをきょろきょろと見渡しながら徐々に女との距離は離れていったが、女は口籠もりながら私の後ろをちゃっかりついてきていた。
それから竹林の中を道に沿って進んでいると、先ほど隠れて道を眺めていた場所に辿り着き、そこでようやく自分のカバンを見つけることができた。
中身を確認すれば何も変わっておらず、安堵のため息をついた時に女が小さな声で声をかけてきた。
「あ、ああ……何か用?」
「あの、助けていただいたお礼をさせていただけないでしょうか?」
「Gratitude(お礼)? 別にいらないよ。オレが好きで助けたわけだし」
「そうは参りません! ぜひお礼をさせてください!!」
「…………あんた、オレのこと怖くないの?」
私は詰め寄ってきた女にそう訊ねた。
しかし女はその質問の意味を理解しておらず、首を傾げた。
私は一つため息をつくと、自分の髪の毛や服装を示した。
女はそこで理解し、そして再び首を傾げたのだった。
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