3.

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「これは……?」 「私の許婚だった方のものです。彼は今日の私のように、お侍様に絡まれた親子を助けようとして……亡くなりました」 悲しい目をしてそう語る女の手は小刻みに震えていた。 それを聞いて、女はその許婚のように私が死んでしまうのではないかと心配して、隠れていたのだと悟った。 ただ残していけなかったわけじゃない、許婚のような人を出したくなかったのだろう。 でも、あの場に残る勇気はなかった。 もしくは、自分が居ては邪魔なのだと悟ったか。 どちらにせよ、彼女は本当に私のことを心配していたのだと解った。 私は今にも泣きそうな女の頭に手を置いて撫でた。 その行動に自分自身驚いたが、彼女の方がもっと驚いていたに違いない。 しかし女は嬉しそうに笑ってくれた。 ーー他人想いで優しくて、変なところで意固地で……そう、彼女はまるで陽菜だ。 そう思って女を見れば、顔つきまでも陽菜のように見えてきた。 実際に、二人とも可愛らしい顔つきなので似てなくもない。 そう言えば、ここはパラレルワールドの世界の一つにすぎなく、知り合いが別の世界で別の人生を歩んでいることもあると神が言っていた。 これはそれなのかもしれない。 女の頭から手を離すと、「ちょっと待ってて」と言い残して竹林の奥へ向かった。 服を脱いで着物を羽織り、手慣れた手つきで帯を締めれば、着ていた服を風呂敷の中に収めた。 何度か教授の着物の着付けを手伝ったことがあり、それが役に立ったようだ。 私は、今はもう会うことのない教授に心の中で感謝を述べると、女が待つ場所へ戻った。 女は私の着物姿に嬉しそうに笑った。 私も彼女の笑顔を見て、口元を微かに上げた。 「とてもお似合いです。少々大きいようですが」 「そりゃ……ね? あ、余分に布持ってない?」 「ございますよ。どうぞ」 私は女が懐から取り出した布を受け取り、それで自分の頭を隠した。 髪がショートのおかげで髪の色は完全に隠すことができた。 そしてもう一つの問題……靴だ。 まあ、着物が大きいおかげでそれほど目立ってはいないのだが……女は平気だろうか? こんなどこの馬とも知れない人と一緒に歩いて、まして女の家にお邪魔するなんて……ご両親は許すのだろうか? …………まるで、彼女の家に挨拶に行く彼氏の心境だ。
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