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私はその豪華さに数回、目を瞬かせた。
品のある女だとは思っていたが、このような家の娘だっとは……想像もしていなかった。
店の前で惚けていると、鈴が私の着物の袖を引っ張ってきた。
視線を鈴に移すと、彼女は「今はお客様の出入りが多いので、裏口から入りましょう」と言って、袖を掴んだまま歩きだした。
私はそれに引っ張られてついていった。
店のすぐ近くには川が流れており、橋がかかっていた。
川に面して少し進み、狭い道へと入った。
店の前の通りとは対照的に、静寂が辺りを包んでいた。
鈴は店の裏口から中に入ると、歩みを止めていた私を手招きした。
「お父様に空いているお部屋があるか聞いてまいりますので、少々こちらでお待ちください」
鈴はそう言うと店の中へ消えた。
私は一度辺りを見渡してから段差に腰かけると、両手を板張りの床につき、天井を仰いで目を閉じた。
私が居るこの場はすごく静かだが、奥の方では料理を作る音、人の声で溢れていた。
そうしていると、こちらに向かってくる足音が一つあった。
この時の私は何を思ったのか、その足音が鈴のものであると決めつけ、気にせずにそのままの体勢を保った。
しかし、足音は私の近くで止まると悲鳴を上げた。
さすがに私は目を開けて振り向き、その人物を確認した。
足音の主は鈴ではなかった。
紺色の着物の袖を捲り上げ、紐で結んでいる格好をした女がそこにはいて、私を指差しながら口をパクパクしていた。
そしてーーー。
「盗人ーーーーー!!」
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