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「鈴、なぜこの方は日本語を理解して日本語を喋れるのだい?」
その質問に私も鈴も、彼が私のことを異人だと勘違いしたままだということに気付いた。
私と鈴は顔を見合せ、私が最初に口を開いた。
「オレ、一応日本人なんだけど」
「見目がとても奇妙なだけですよ、お父様」
私に対して少し失礼な発言を鈴はしていたが、彼女は全く気付いていないようだ。
鈴の父もそれに気付いたのか、若干呆れた顔をして、彼女の頭に手をのせた。
そして頭を撫でれば、鈴は嬉しそうな顔をした。
「そうか、この方は日本人だったのだね。失礼な発言をしてしまって申し訳ない」
「いえ」
「鈴、この方を百合の間にお通ししなさい」
「かしこまりました」
鈴の父は彼女にそう言い残すと、私に軽く頭を下げてから店の奥へと消えた。
私は彼の後ろ姿を見送りながら、彼の態度に驚いた。
彼は一度も、私のことを嫌悪するような目で見なかったのだ。
もちろん、鈴が事前に話していたというのもあるだろうが、それでも見るからに怪しい私のことをただの一度も軽蔑した目で見ないのは、彼がもともと寛大な性格の持ち主だからなのかもしれない。
「百合の間にご案内します」
私たちは裏口から表玄関へ通じる一本道を進んだ。
左側には台所があり、数人の使用人が忙しなく働いていて、先ほどの四人の男たちもそこにいた。
彼らは私の姿を見かけるとあの視線で睨みつけ、一緒に働いている若い男に声をかけられると視線をそらした。
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