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鈴はそのまま突き進み、暖簾の奥へと消えた。
そこはおそらく表玄関なのだろう、彼女が客を出迎えている声が聞こえた。
彼女の声のほかにも、鈴の父と女の声が聞こえた。
私はそっと暖簾を捲り、様子を見てみた。
五人の男たちが、紺色の着物を着た一人の女に先導され、二階へ通じる階段を上がっていった。
店主は玄関先にある小さな机の前で本のようなものを見ているのか、紙をめくる音が微かに聞こえた。
上品な着物を着た、雰囲気にも品のある女は客の履物を纏めており、鈴もそれを手伝おうと玄関に降り立った。
「鈴、先ほどのお客人をまず部屋にお通ししなさい」
「お客人……?」
「ああ、帰り道に浪人に絡まれたところ、助けてくださったそうだよ」
「まあ! 命の恩人じゃないですか。その方はどちらに?」
女は鈴に向かって言った。
鈴はそれに辺りをきょろきょろと見回して、暖簾の奥にいる私の姿を見つけた。
私はとっさに暖簾の陰に隠れたが、鈴は私の手首を掴んで引っ張ってきた。
体勢を一瞬崩したが、なんとか踏みとどまって倒れずにすんだ。
そして鈴を呆れた目で一瞥してから、女の方に視線を向けた。
そこには、鈴とよく似た顔をした女がいた。
「この方が私の命の恩人の朔様です、お母様」
鈴は嬉しそうに女ーー鈴の母に伝えたが、彼女の母の顔は驚きから困惑、そして嫌悪へと変わっていった。
鈴はそのことに気づかず、私を彼女の母の目の前に連れて行こうとしていた。
私はあの眼差しを見て体が思うように動かず、後退りをしたかったが、鈴に引かれるまま彼女の母に近づいていった。
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