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それから五分ほど経った頃か。
廊下から声をかけられた。
この声の主は、鈴の父だろう。
「お邪魔するよ。寛いでいただけているかな?」
「はい」
「それは良かった。申し遅れたが、私はこの風月亭の亭主、風月雷光(フウヅキライコウ)と申す。この度は、娘の鈴を助けてくれてありがとう。感謝してもしきれないよ」
「勝手に助けただけですから。オレの名前は朔です」
「朔……殿か。して、朔殿は何用でこの京に? お急ぎならば、お礼はまた後日に致すが」
「急ぎじゃないけど、ある目的で、ちょっと…………って、ここは京なのか?」
「それも知らずに参られたのか? もしや朔殿、迷子では……」
「オレは迷子じゃない。そうか、京か……。It's good for me(それはいい)」
鈴の父ーー風月雷光は、私と向かい合う形で畳の上に腰を下ろした。
私も、窓枠から下りて雷光ときちんと向き合うようにして座った。
「訊きたいことがあるんだけど」
「私に答えられることなら」
「それじゃ、まず……今日は何年のいつだ?」
「おもしろいことを訊かれるね。今日は文久三年、水無月の二十一日だよ」
「文久三年、水無月の二十一日」
私はそう小さく口に出した。
今が西暦で何年なのかが一瞬では出てこず、陽菜から貸してもらっていた本の内容を思い出しながら考えた。
さて、まずは文久という年号だ。
文久は、一八六一年が辛酉革命の年にあたるため、改元された年号。
そして今年は文久三年、つまり一八六三年になる。
水無月は六月のこと。
一八六三年六月二十一日。
史実通りであれば、新撰組はすでに京に来ていることになる。
ーー陽菜の願いには、新撰組の助けになる、もしくは生き様を見るっていうのも入っていた。上手く彼らと接触できるだろうか……。
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