4.

12/24
前へ
/782ページ
次へ
「料理をお持ち致しました」 そう言って、鈴は懸盤を先に中へ入れた後、室内に入ってきた。 懸盤を手に持ち、私の目の前に置いた。 量は前の世界より少なめだが、見るからに豪華そうなものが並んでいた。 雷光の前にも、もう一人の女が同じ料理を置いた。 「失礼致します」 紺色の着物の女は部屋を出ていった。 鈴は雷光の左隣に正座をすると、雷光と視線を合わせて頷いた。 雷光も頷くと、再び私と視線を合わせた。 「それでは朔殿、改めて、娘を助けていただきありがとうございました。お礼と言ってはなんだが、風月亭の料理でおもてなしさせていただこう」 「こちらこそ、わざわざありがとうございます。ありがたくいただきます」 雷光と鈴は深く頭を下げた。 それにつられて私も、そう言いながら深く頭を下げた。 こんなにも感謝されたことなどなかったので、すごく焦ったし……嬉しかった。 私は良いことをしたのだと実感した。 私たちは一度目を合わせ、雷光の勧めで料理に手をつけた。 どの料理も絶品で、どうやったらこんなにも美味しく作れるのか不思議だった。 「お味はいかがでしょうか?」 「Very delicious! ……じゃなかった、すごく美味しいよ」 「でり…? もしやそれはメリケン語かな?」 「知ってるのか?」 「ここに来られるお客人の中に、似たような言葉を話す人がいてね。その人に、それはメリケン語だと教えてもらったのだよ」 「へぇ……」 私はその話を聞いて、頭の中にある人物を思い描いた。 メリケン語を話し、京に現れる人物を私は一人だけ知っている。 しかし、他にもそういう人がいるかもしれない。 頭の隅に雷光からの情報を置いておき、私は目の前に広がる料理をひたすら堪能した。
/782ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3493人が本棚に入れています
本棚に追加