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「料理をお持ち致しました」
そう言って、鈴は懸盤を先に中へ入れた後、室内に入ってきた。
懸盤を手に持ち、私の目の前に置いた。
量は前の世界より少なめだが、見るからに豪華そうなものが並んでいた。
雷光の前にも、もう一人の女が同じ料理を置いた。
「失礼致します」
紺色の着物の女は部屋を出ていった。
鈴は雷光の左隣に正座をすると、雷光と視線を合わせて頷いた。
雷光も頷くと、再び私と視線を合わせた。
「それでは朔殿、改めて、娘を助けていただきありがとうございました。お礼と言ってはなんだが、風月亭の料理でおもてなしさせていただこう」
「こちらこそ、わざわざありがとうございます。ありがたくいただきます」
雷光と鈴は深く頭を下げた。
それにつられて私も、そう言いながら深く頭を下げた。
こんなにも感謝されたことなどなかったので、すごく焦ったし……嬉しかった。
私は良いことをしたのだと実感した。
私たちは一度目を合わせ、雷光の勧めで料理に手をつけた。
どの料理も絶品で、どうやったらこんなにも美味しく作れるのか不思議だった。
「お味はいかがでしょうか?」
「Very delicious! ……じゃなかった、すごく美味しいよ」
「でり…? もしやそれはメリケン語かな?」
「知ってるのか?」
「ここに来られるお客人の中に、似たような言葉を話す人がいてね。その人に、それはメリケン語だと教えてもらったのだよ」
「へぇ……」
私はその話を聞いて、頭の中にある人物を思い描いた。
メリケン語を話し、京に現れる人物を私は一人だけ知っている。
しかし、他にもそういう人がいるかもしれない。
頭の隅に雷光からの情報を置いておき、私は目の前に広がる料理をひたすら堪能した。
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