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四方から会話が飛び交うが、私は一切口を挟まなかった。
ただ無表情で歩き続けていた。
「そういえば聞いた? あの子、天文学科の木下教授とデキてるって」
「えっ、国文学科の岩国教授とじゃなかったのか?」
「俺は進路相談室の土谷とデキてるって噂聞いたんだけど」
「えー、なにそれ。ってことは三股ってこと?」
「いやいや、陽菜ちゃんに限ってそんなことは」
「でもさ、ミス夕月になってからあの子図に乗ってない?」
「あ、それわかるー」
「いや、謙虚で清純派の陽菜ちゃんに限って、図に乗るなんてことはないだろ」
「見た目で騙されちゃいけないよー。実はかなり軽かったりしてー」
噂と主観で盛り上がっていた会話だが、私がぴたっと足を止めたことで瞬間的に会話は中断され再び空気が凍りついた。
四方から緊張と焦りを感じ取り、斜め下に向けていた視線を上げて周りを一瞥した。
案の定顔からもその感情が読み取れ、私と目が合った順に顔から血の気が引き、弁解を始めた。
「あ、あのね望月、違うよ。あの子の悪口を言ったわけじゃなくてね」
「そうそう、悪口じゃない。だから有栖川、怒んなよ?」
「噂は所詮噂だし、な?」
「そうだよ、望月が気にすることは何もないよー」
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