23.

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──でも、具体的に何が起きるかを覚えてない……。つくづく、役立たずな記憶だ。 自嘲気味に笑う私をよそに、新見もまた笑みを浮かべていた。 しかしそれは晴れ渡った青空のような清々しいものだった。 「何を考えている……か。むしろ何も考えていないな」 「オレのことを連れ出しといて、何も考えてないって……」 「それは別だ」 「じゃあ何の用?」 「ああ、野口にも頼んだことだが」 「新見さんが頼み事?! 明日は雨───」 「野口と同じ反応をするな」 珍しい事につい口が先に動いてしまい、新見に手で塞がれてしまった。 野口と同じリアクションをとったという事実に悲しくなったが、とりあえず息ができない。 今日は厄日だと本気で思いつつ、ギブアップの意を込めて新見の腕をバシバシ叩いた。 三秒ほどして漸く解放され、深く息を吸い込み、見上げた新見の顔には先ほどの笑みとは一転、いつもの表情が張り付いていた。 「で、頼み事って?」 「芹沢さんのことだ。俺は当分、こっちには戻らない。あの人に何かあれば、お前が対処しろ」 「対処って……はい、それは承知したけど、何かってなに? というか、当分戻らないって、さっきも芹沢さんの傍にいなかったし、どこで何してたんだよ」 「お前には関係ない」 「関係ないけど知りたい。あんた、ずっと芹沢さんの傍に居ただろ? なのに突然傍を離れて…………そう、梅さんが来てからだ」 ここ数日のことを回想しながら話していれば、思い当たる節が出てきた。 そう、芹沢と梅の想いが通じたあの日から、二人が一緒にいるところを見た記憶がない。 たかだ四日間だけだが、常に共に行動していた二人が今更別行動するのはおかしい。
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