5.

2/22
3487人が本棚に入れています
本棚に追加
/782ページ
あれから一週間が経った。 私は男の奉公人として日々、風月亭で雑務をこなしている。 部屋の掃除や薪割り、火おこしなど。 この世界の文化は私が元いた世界とはかけ離れていて、本当に一からのスタートだった。 他の奉公人に教えてもらおうと勇気を出して声をかけるが、案の定あの嫌悪と軽蔑の眼差しを受けて、会話をすることさえ叶わなかった。 数日の内は雷光に教えてもらっていたが、徐々に打ち解けてくれる者もでてきて仕事の幅も増えた。 それから、住み込みで働いているのは私だけのようで、私は鈴の部屋の隣の空き部屋を貸してもらっている。 加えて、着物も下駄も、雷光のおかげで自分専用のものを作ってもらった。 さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないと思い、もちろん断ったのだが、最終的に押し切られてしまったのだ。 なので、その分も私は日々、仕事に精を出している。 店の中の仕事が主で、外にはほとんど出ていない。 雷光としては、私の見目など本当に気にしていないようでーーいや、気にしているからこそなのだがーー使いに行かせたいようだ。 しかし京の地理も知らない私では迷惑でしかないだろう。 そう言えば「では、鈴の使いに供として付いていってくれ」と、意地でも外へ出そうとしている。 さすがにそこまで言われてしまうと従わざるをえない。 そしてそれを言われたのが昨日の夜。 今日が初めての外出だ。 「おっ、朔! 今日が初めての外出だってな」 「はい、そうだよ。色(シキ)は……遊んでるのか」 「休憩してるんだよ! で、行き先は?」 「えっと~……新澤屋(ニイザワヤ)」 「へえ、あそこか。朔、あそこの看板娘は気が強いから気をつけろよ。お前みたいに小さくて細くて弱そうな男が嫌いなんだ。今までに何人あいつの餌食になったことか……」 調理場に一人でいた男ーー葦名一色(アシナイッシキ)は、そう言って体をブルッと震わせた。 私はそれを、憐れみを込めた目で眺めた。 ーー色も、餌食になったのか。
/782ページ

最初のコメントを投稿しよう!