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あれから一週間が経った。
私は男の奉公人として日々、風月亭で雑務をこなしている。
部屋の掃除や薪割り、火おこしなど。
この世界の文化は私が元いた世界とはかけ離れていて、本当に一からのスタートだった。
他の奉公人に教えてもらおうと勇気を出して声をかけるが、案の定あの嫌悪と軽蔑の眼差しを受けて、会話をすることさえ叶わなかった。
数日の内は雷光に教えてもらっていたが、徐々に打ち解けてくれる者もでてきて仕事の幅も増えた。
それから、住み込みで働いているのは私だけのようで、私は鈴の部屋の隣の空き部屋を貸してもらっている。
加えて、着物も下駄も、雷光のおかげで自分専用のものを作ってもらった。
さすがにそこまでお世話になるわけにはいかないと思い、もちろん断ったのだが、最終的に押し切られてしまったのだ。
なので、その分も私は日々、仕事に精を出している。
店の中の仕事が主で、外にはほとんど出ていない。
雷光としては、私の見目など本当に気にしていないようでーーいや、気にしているからこそなのだがーー使いに行かせたいようだ。
しかし京の地理も知らない私では迷惑でしかないだろう。
そう言えば「では、鈴の使いに供として付いていってくれ」と、意地でも外へ出そうとしている。
さすがにそこまで言われてしまうと従わざるをえない。
そしてそれを言われたのが昨日の夜。
今日が初めての外出だ。
「おっ、朔! 今日が初めての外出だってな」
「はい、そうだよ。色(シキ)は……遊んでるのか」
「休憩してるんだよ! で、行き先は?」
「えっと~……新澤屋(ニイザワヤ)」
「へえ、あそこか。朔、あそこの看板娘は気が強いから気をつけろよ。お前みたいに小さくて細くて弱そうな男が嫌いなんだ。今までに何人あいつの餌食になったことか……」
調理場に一人でいた男ーー葦名一色(アシナイッシキ)は、そう言って体をブルッと震わせた。
私はそれを、憐れみを込めた目で眺めた。
ーー色も、餌食になったのか。
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