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九月十二日。
そろそろ日付も変わろうとしている刻限、ある一室が淡い光を浮かべていた。
母屋の奥の方にあるそこは、壬生浪士組の二人の局長の内の一人、近藤勇の部屋だ。
普段なら暗闇に染まっているはずなのに、今日に限って……いや、ここ数日、光と声が微かに漏れている。
「最後の確認だが、明日までだということを教えてあげるよう、芹沢さんには言っていたんだね?」
「ああ、再三告げた。芹沢も教えないってことはしないだろう。あれでも一応、副長だからな」
「ですが彼は応じなかった。法度が制定されて七日、充分な余地は与えたのですがね」
「その余地を、まだ与えられはしないのかい?」
「近藤さん、情けは無用の世界に、私たちはいるのです」
「珍しく意見が合うな、山南さん」
「この腕になってから、多少考えが変わりましてね」
山南はそう言って左腕を擦った。
日常生活に不便はないものの、刀を握るとなれば話は別だ。
強く握れぬ掌を見つめ、そんな姿を沈痛な面持ちで近藤は見つめた。
「朔君に診てもらおう、山南君。彼の力は頼りになるものだ。トシも、ようやく朔君のことを信用してくれるようになったようだし」
「あの力はな。だが、診てもらう奴が信用してなけりゃ、治るもんも治らねぇだろ。山南さん、どうする?」
「……考えさせてください。その時が来たら、お話しします。それよりも、話がずれてしまいましたね。失礼致しました」
普段通りの笑顔を浮かべ、山南は何事もなかったかのように振る舞う。
その胸の内を感じ取った土方も同じように普段通りに眉間にしわを寄せ、未だに心配気に山南を見つめる近藤を見据えた。
「近藤さん。局中法度を作った意味は何だ?」
「……っ」
「作ったのは俺たちだが、了承したのはあんただ」
「わかって……いるよ。壬生浪士組を強く大きくするためだ」
「そうです。そのための礎となっていただくのです」
「ああ。……………………明朝、局中法度に背いたとして、壬生浪士組副長、新見錦を罰する」
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